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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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レストランバトル

一月の中旬あたりから、ようやく盛り上がってきた今年のハイシーズンですが、例年と比べ、少し、お客さんが少ないように感じます。いつもなら、クリスマス明けの12月25、26日あたりから、一気にお客さんが増えるはずなんですが、今年は、一年で、最も忙しいはずの正月三が日も、パッとしないまま、あっさりと過ぎてしまいました。

ジャンクセイロン(パトンビーチにある大型ショッピングセンター)ができて以来、人の流れが変わりつつあるようで、夜間、歩行者専用となるバングラーロードに集まってくる観光客の何割かは、ビーチロードには戻らず、そのまま、200ピーロードに抜けていってしまいます。
あまり、お金を使わないお客さんが、長く滞在する傾向も、昨年あたりから生まれてきているようで、どこのホテルも満室の割には、レストランや、小売店は、それ程、儲かっているようには見えません。いつ銀行にいっても、行内はガラガラで、行員に聞いても、景気のいい話は、ほとんど聞けません。二年前には、どの銀行も、連日ぎっしりで、長々と順番を待たねばならなかったのですが・・・。

向かいのスイートレストランのパワーダウンも、大きな要因になっていると思います。ちょっと前までは、パトンビーチで有数の人気店だった、このお店も、ここ数年は、下降気味で、特に、昨年の値上げから、客離れが加速し、今年は、お正月から満席にならない、異常な展開となりました。
自力では客を呼べない・・・、いや、呼ぼうともしない、我がブレイクポイントは、コバンザメのように、このお店が引き寄せてくるお客を、2、3日後に頂く、という戦法に徹して、これまで、売り上げを安定させてきましたが、この辺で何か、テコ入れの時期に来ているのかもしれません。


「いよいよ、明日、オープンか・・・」
夢を膨らませ、希望に燃えて、ブレイクポイントをスタートしたのが、2001年の12月17日でした。
斜向かいのゲストハウス・スマイルインが、お客さんを回してくれたこともあって、ホテル業の方は、最初から順調でしたが、レストラン経営は、そんなに簡単なビジネスではありませんでした。

これには、様々な理由が考えられますが、最も大きな要因は、飲食業の素人である私が経営するには、このお店は、大きすぎたようです(逆に、ホテルの客室数11というのは、私の実力にあったものだったのでしょう)。
実力に不相応の店舗面積、客席数が、創業以来、常に私に、大きなプレッシャーを与えてきました。

飲食店の経営をされたことのある方なら、お分かりになると思いますが、小さなお店なら、素人が見よう見まねで始めたとしても、お客さんにアピールするものが、何か一つでもあれば、それなりに、うまく回すこともできます。
ところが、店舗の面積が大きくなれば、なるほど、アピールする要素が複数必要となり、ノウハウを持ったプロの経営でなければ、とても素人の手に負えるものではありません。、

人間の心理とすれば、ガラガラのお店には、入り辛いですから、いつも、可能な限り、お店を、お客さんで一杯にしておかねばなりませんが、大きなお店になれば、なるほど、それは、大変難しいことなのです。ツアー会社とタイアップして、お客さんを連れてきてもらう、という方法もありますが、そういった、手の込んだやり方は、私の性には合いません。
どうやって、道行く観光客に、「ここで、食事していこう」という気にさせるか、それが、第一段階の問題となります。

ローシーズンの間、私が、常に心掛けていることは、
スモール・フィールドの原則です(オフト・マジック!懐かしいじゃろう)。
できるだけ、店頭のテーブル数を、不自然でない範囲内で少なくし、少しのお客でも、たくさんに見えるよう工夫します。そして、お客さんが誰も座っていない奥の席は、照明を落として暗くして、ガラガラの店内を全部見せません。

少ない客を、より多く見せ、そのお客で、また、新たな客を呼ぶ。これが一たび、うまく回転すれば、お客さんが、どんどん入ってくるようになります。
今では、ハイシーズンには、逆に店頭のスペースが許す限り、めいっぱい机を置いて、お客さんを、ぎっしりと詰め込むことができるようになりました。

そして、入ってきたお客さんを、いかに満足させるか、これが、第二の問題です。
ここでいう、お客とは、プーケットの観光客の中でも、多数派であり、ブレイクポイントの経営戦略上のターゲットでもある、白人客を主に考えます。
料理の味、内容は、基本中の基本ですが、ここをオープンして、すぐに気がついたのは、その料理を自分で食べてみて、美味しいか、どうか、という問題よりも、それが白人たちに、アピールできるものなのか、どうかが、より重要なことのように思えました。彼らが、「食べよう」という気にならない料理では、何の意味もありません。
野心的で、斬新な新企画よりも、ありきたりではあっても、よく名前の通ったものの方が、はるかにベターだといえます。

オープンの前に、当時働いていた日本人の料理長と、メニューのネーミングで揉めたことがありました。ある料理の名前を、「ハッシュド・ビーフ・ライス」にするか、「ハッシュド・ライス」にすべきかで、意見が分かれました。
「日本じゃあ、ハッシュドビーフといえば、ビーフの塊が入ってますよ」
「でも、ハッシュドだけじゃあ、英語の意味が通らないじゃないか」
各局、私が強引に、「ハッシュド・ビーフ・ライス」に決めましたが、どちらに転んでも、このネーミングと料理では、白人にアピールする要素はゼロでしょう。案の定、一ヶ月でボツ企画となりました。
今なら、きっと、こうやりますね。
まず、ライスの代わりに、マッシュ・ポテトを添えて、ソースの内容は同じでも、ネーミングはこうします。
「マッシュ・アンド・グレービー」
一皿80バーツで、どうでしょう。ドイツやイングランドにも、似たような料理があるようですが、そんな感じで、いいんではないでしょうか。これなら、毎日最低でも、2~3食は、出ると思います。

そして、お店の前で、立ち止まったお客さんに声をかけ、席に誘導し、メニューを渡して、オーダーを取り、できた料理をテーブルに持って行く、この間、給仕は、常に笑顔であることは言うまでもありませんが、限られた人数で、いかに、これを素早く行うか、ホールでの勝負は、ズバリ、これだと言えます。

ハイシーズンには、人手が足りなくなり、私も、他の従業員に交じって、店内所狭しと、走り回らねばなりませんが、次から次へと入ってくるお客さんを捌きながら、忙しく体を動かし、指示を出している、このときこそが、まさに、飲食店経営の醍醐味だといえるでしょう。私が最も、充実感を得られる瞬間でもあります。

タイという国は、犬を見れば、よくわかるのですが、あくせくと、せわしなく動き回るには、やはり、気候が厳しすぎるようです。どの犬も、グダッとして、やる気がなく、
「オラぁ、飯喰うとき意外は、動きたかぁ、ねえんだよ」
とでも言いたげに、屋外テーブルの下など、陽の当たらない場所に寝そべって、一日中、ゴロゴロしています。きっと、人間に飼われていなければ、どの犬も、一週間ともたないでしょう。

ここで暮らしている人間たちも、例外ではないようで、あくせくやっている人は、決して、周りの人々から快く思われることはありません。
私も、タイで暮らし始めて14年以上経っていますから、一年の大半は、犬と同じように、グダッとした生活を続けていますが、ハイシーズンの二ヵ月間だけは、さすがに、しゃきっとして、気分は高揚し、目は輝き、場合によっては、血走り、再び、人間社会に戻ってこれるような気がします。

飲食業には、お金には返られない、一種独特の魅力があると言えるでしょう。
ローシーズの間には、あまり感じなかった、お店に対する執着心が蘇ってきます。

この話、次回に続きます。
by phuketbreakpoint | 2008-01-30 10:28