人気ブログランキング | 話題のタグを見る

タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
カレンダー
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31

幸せを呼ぶパンツ

ローシーズン初頭、冷え込んだプーケット観光ビジネスを象徴するかのように、長期休業に入った、お向かいの「スウィート・レストラン」ですが、近所でマッサージ店を経営する、オーストラリア人の男性が新しい経営書となり、再出発することになりました。
最初のうちこそ、
「素人が何考えてんだか・・・(私も似たようなもんですが)」
と余裕のあった私でしたが、10月に入るや、まるで、
"魔法でも、掛けられたかのように”
うちには、お客が入らなくなり、一方のスウィートレストランは、連日の大入りで、こちらのお客が、向こうに吸い取られてしまったように感じました。

曲がりなりにも、8年間、ラントムと、2人で苦労しながら、ここまで、お店を続けてきた私が、
昨日今日、乗り込んできた新参者に、いきなり、コテンパンにやられてしまい、屈辱を味わったのは言うまでもありませんが、それ以上に、損益分岐点を大幅に下回る営業が毎日続いている状況には、大きな危機感を感じました。

そんな中で、私は、プーケットを離れ、一時帰国することになります。
「日本で、のんびり考えれば、いい案が浮かぶかも・・・・」
こんな期待もあったかもしれませんが、東京で、久しぶりに再会した友人の話を聞いても、景気の悪いものばかりです。
「やっぱり、日本は大変なんだなー」
と改めて感じてしまったり、数年ぶりに体感した満員電車の窮屈さの中でも、
「こうやって、みんな、頑張ってるんだなー」
なんて思うと、別に、私が悪いことをしているわけでもないのに、なんだか、とっても、申し訳ないような気分になってきてしまいます。
そして、そういった雰囲気の中で、自分が直面している諸問題を改めて考えてみると、

・かつてないほど、厳しい営業が続いている。
・なおこは、高知でやっていけるんだろうか。
・あきおは、もっと心配だ。
・マヨムが留学したいと言っている。お金は大丈夫か。
・毎年、どんどん年をとってしまう(当たり前なんですが)。
・このところ体調も良くない(ピアノ疲れか?)。

1つ1つの現実と、真っ向から、向き合わねばならないような気がしてくるわけです。
「ヤバイ・・・・、何とかしないと、本当に、ヤバイ・・・・、このままじゃ、潰れる・・・」
のんびりするどころか、ますます、追い込まれ感が迫ってくるような気がしました。

ところが、成田空港から飛び立った飛行機が、バンコク・スワンナプーム国際空港に到着し、機内とゲートを繋ぐ連絡通路に足を踏み入れ、熱帯特有の、ムッと、くるような生暖かい空気に触れた途端、なんだか、急に視界が明るくなってくるような気分になるのは、どうしてなんでしょう。
日本から戻ってくる度に感じる、この開放感。やっと、安心して逃げ込める場所に戻ってこれた、という部分は確かに大きいのですが、それが、すべてでもないようです。

家に着くと、お店は、例によってガラガラで、営業的には最悪のままでしたが、ラントムが嬉しそうな笑顔で出迎えてくれました。お店が終わり、水シャワーを浴びて、寝間着に着替え、DVDを見ながら寛いでいたら、ラントムが上から降りてきます。

「お客さん、入ってないね・・・・」
「そうね、ここんとこ、ずっと、ダメねえ・・・・」
「なおこは、『友だちが少なくて、寂しい』って、言ってたなあ・・・」
「大丈夫かしら・・・」
「あきおは、どうだー?少しは、やる気になってきたの?」
「前と同じ、全然変わってないわよ・・・・・・・」
「日本じゃ、体調悪くてねー」
「パパも、若くないんだから、気をつけてね・・・・」

既に十分承知しているはずの状況を、もう一度上から、なぞり直すような会話が続いていたにも関わらず、私は、大いに寛いでいたような気がします。前日までの落ち込みとはうって変わり、プーケットに戻ってきた途端に、精神状態だけは、極めて良好になっていました。
様々な難題は、依然として目の前に横たわってはいるものの、
「そのうち、なんとかなるんじゃねえの、ガハハ・・・」
と笑い飛ばしているのです。

「パパが日本で買ってきた、ラーメン作ったわよー」
「おほー、おいしそう。いただきまーす」
とんこつ味の風味が、ほんのりと漂って食欲をそそりますが、麺をかき分けているうちに、
「おっ、卵が2個も、入ってるぞー!(涙)」
どんぶりを両手に乗せて、スープを全部啜って、
「ぷっはー、うめーっ!」
これだけで、幸せいっぱいになってしまうのですから、安上がりな話です。ここでは、幸福のハードルが大幅に下がってきますから、悪い状況を一気に吹き飛ばすに余りある、満足感を味わえるのかもしれません。

そして、こういう精神状態だと、うまい解決策が突然浮かんできたりします。
「どしてなんだろうなあ・・・・、なぜ、急に客が入らなくなったんだ・・・・、待てよ・・・・」
以前と今とで、どこが違うのか、一つ一つ検証していった私は、あることに気付きました。

「ママ、もしかしたら、これが原因かもしれない」
「何なのよ」
「パンツだよ」
「・・・・・はあ?」
「ママが、『こんな汚い短パン穿いてないで、新しいの買いなさい』、なんて言うから、ビッグCで買った、199バーツのズボンだよ。原因は、アレかもしれない。あのズボンが、災いの基になっているんだ」
呆れ顔のラントムに向かって、私は、再び引っ張り出してきた、ボロパンツを指差して、
「見ててみなー。明日は、きっと客の入りが違うから」

そして、翌日の夜です。
大入りというわけではありませんが、そこそこ、客は入ってきます。
「な、そうだろ。やっぱり、パパの言うとおりだ」
この夜から、新品のズボン3着は、お蔵入りとなり、ボロボロのパンツ4着を、私は再び穿き回すようになりました。そして、ガタガタだった経営も、徐々に立ち直り、また、採算ベースに戻ってきたのです(ホントだぞ)。

私は、宗教を、まったく信じない人間ですが、ゲンを担ぐことに関しては、かなり、積極的で、
「なんか、革靴を履いていると、いつも、客の入りが悪いなあ・・・」
と、2シーズン連続で、サンダル履きのまま、通していました。
服やズボンも、「いざ」というときのための、「勝負服」や「勝負パンツ」を、ちゃんと用意してありますが、どちらも、ボロなのは言うまでもありません。
「この服、ラッキーかも」
そう思うと、なかなか捨てることができないのです。
我ながら、実に怪しげな必勝法ですが、こんなものでも、プーケットでタイ人に囲まれながら仕事をしていると、ちょうどいい潤滑油となって、適度に肩の力を抜く役割にはなっているのでしょう。
by phuketbreakpoint | 2009-11-17 22:27