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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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オヤジ大噴火

「パパが、あきおと同じ年齢の頃にはなあ、特に、優等生ってわけじゃなかったけど、それなりに、親の言うことは聞いていたもんだ。学校から帰ってきたら、復習と予習だけは、しっかり、やっていたぞ。夕食の後は塾に通って、帰ってきたら、参考書を暗記したり、問題集をやったり、その合間を縫って、おばあちゃんの、お手伝いもやってたな。肩叩いて親孝行したり、クラブも、しっかり頑張ってたぞ。委員会活動や、文化祭なんかも積極的だったよ。
タバコ?そんなもん、買う暇なかったし、興味も無かったし、酒なんて、大学に入るまでは、一滴だって飲んだこと無かったぞ。バカな連中とは、付き合わなかったからな・・・・・(以上、全部ウソ)」
こんな話を、あきおに聞かせていたのですが、やはり、真実味に欠けていたようで、説得力が無かったようです。

「あきお。お前、タバコ臭いぞ!」
こう注意しても、
「気にしない、気にしない。どうせ、パパも、高校生の頃は、やってたんでしょ?」
こう言われてしまうと、返答に窮しますが、
「バカ野郎。高校生がやっていいことと、悪いことがあるんだよ。あんなもんは、体に悪いって、すぐに気がついたから、高校に入ったら、禁煙したよ」

また、あるときは、
「そういえば、メータウが言ってたけど、お前、お店の裏で、ピーシン(あきおと種違いの兄)と、ビール飲んでたそうじゃないか」
そう注意しても、
「気にしない、気にしない。どうせ、パパも、高校生のときは、飲んでたんでしょ?」
こう返されてしまうと、やっぱり返答に窮しますが、
「バカもん。高校生がやっていいことと、悪いことがあるんだよ。パパは、中3の時、毎晩、寝る前に冷蔵庫からビールを、くすねて飲んでたら、ビール腹に、なっちゃってな。それ以来、ウイスキーに代えたよ」


プーケット・サットリーを始め、インター校を除く、島内すべての学校から、入学を断られてしまった、あきおは、徐々に生活が乱れていきました。
もともと、真面目な生活でもなかったのですが、それが他人の目にも、はっきりと分るほど、崩れてきたのは間違いなかったと思います。
相変わらず、進学に関する状況では、「タイ王国の本領」が発揮されたままでした。
「サットリーも、まだ、諦めるのは早い。試験を受けてから、改めてお願いすれば、何とかなるみたいだよ」
「やっぱり、ダメだった?でも、3日後に、校長先生が来るから、そのとき、お願いすれば、入れてくれるよ」
「今度こそ大丈夫。残り枠が、まだあるから、明日、行ってみるといいよ」
いろんな人に相談し、いろんな人が様々な情報を教えてくれましたが、その度に、期待を裏切られ、その日が来ると、肩透かしという連続でした。

これでは、あきおも、耐えられなかったでしょう。
「今度の今度は、本当に入れる・・・・」
また、そんな話が入ってきましたから、私も、ラントムに、こう言ったと思います。
「いや、もう止めよう。これじゃあ、あきおも、嫌になっちゃうよ。この辺で、見切りを付けた方がいい」
しかし、止めるといっても、英語で授業が行われるインター校に、あきおを入れるのは、さすがに無理があります。
いういった、ドン詰まりに陥る可能性も、予想できなくはありませんでしたから、
「いよいよ、最悪の場合は、ここだろう」
予め探りを入れていた学校が、1つだけありました。
それは、バンコクにある、インターもどき(?)の学校で、いつでも、誰でも、どんな成績でも、お金さえ払えば、無条件で入学でき、しかも、授業は、タイ語で行われるといいます。ここには、菱和高校の1年先輩で、やはり、退学処分を受けてしまった少年(母親がタイ人、父親が日本人)が通っていましたが、彼は、半年前に編入できたそうです。

「あきお、ここなら、入れてくれるそうだ。一郎くん(仮名、あきおの先輩)と同じ学校だけど、それでいいか?」
それでいいか、と一応、尋ねましたが、事実上、これ以外に選択肢はありませんでした。あきおにも、それは十分、分っていたのでしょう。
「わかった。ここにする」
菱和のときと違って、感動も、期待も、ほとんど無い、あきおにとっても、私や、ラントムにとっても、なんとも冴えない進路決定になりました。
「もしも・・・」という言葉は、使いたくありませんが、あの副マネージャーが半年前に、ちゃんと、考えて返事をしてくれていたら、1年留年することもなく、すぐに編入して、今頃、2年生に進級できていたでしょう。

入る高校が決まってからも、あきおには、モチベーションが何も湧かなかったようで、相変わらず、生活は荒れたままでした。これまでは、私や、ラントムの話は一応、聞いている、フリくらいはしていたのですが、だんだんと無視することも多くなり、私たち夫婦のフラストレーションは、どんどん溜まっていきました。素直なだけが取り得(?)の、あきおから、素直さを取ったら、何も残りません。
“思春期の子と、どう接するべきか”
中学の3年間、私が両親に押し付けていた苦労が、時間差で、自分のところに回ってきたわけですが、私も、ラントムも、どうすることもできず、忍従の日々が続いていきました。

そんな、ある日のことです。
「おい、あきお、お前、いいかげんにしろ」
菱和をクビになったときにも、結局、私は、一言も怒らず、タバコを吸おうが、ビールを飲もうが、
「お前ねえ・・・、こういうのは、もっと、コソコソやるもんだよ」
としか言いませんでしたが、このときは、余りにも露骨なあきおの態度に、我慢が限界に達してしまったのでしょう。とうとう、大噴火してしまいました。
“地震、雷、火事、オヤジ”
昔から、男の子にとっては、この4つが、世の中で、最も怖い存在だと言われてきましたが、その筆頭格は、当然、父親であるべきだと、私は思っています。度を越して、子どもが羽目を外していたら、たとえ、地震や、雷や、火事が襲ってこなかったとしても、大魔神の形相で、「ぬー」っと、オヤジが現れ、恐ろしいことになってしまう・・・・。
そういう歯止めが架かっていたからこそ、世の中は、うまく収まっていたのではないでしょうか。
ここは、一親父として、爆発しなければいけません。
“ドカーン!”

突然始まった、父と兄の乱闘に、きよみは泣きながら、うろたえていましたが、私も、高校生の、あきおを相手に、手加減する余裕は、まったく、ありませんでした。
マウントポジションから、体勢を横四方に移行して、両腕を固めてしまうと、あきおは身動きが取れませんでしたが、それでも、あの子は抵抗してきます。本来なら、ここで止めるべきだったかもしれませんが、私は、容赦しませんでした。

「まだ、やるのか?この体勢からなら、何発でも、入れられるぞ!」
私が、そう言うと、あきおは、ようやく力を抜き、私も上体を起こしました。
あきおの顔に目をやると、試合を終えたボクサーのように、腫れ上がっています。
「しまった・・・・。やりすぎたか・・・」
正直、そう思いましたが、私も、このとき左耳に受けたダメージが意外な程大きかったようで、数日後には化膿して、手術することになってしまいました。あきおを、ねじ伏せるために消耗した体力も、かなり大きかったようで、この日から、2、3日は、体調がおかしかったと思います。

そんなとき、きよみからの緊急電話を受けたラントムが、戻ってきてしまいます。
「あきおっ!大丈夫なの!?」
ラントムは、あきおの顔を見るや、泣き出して、恨めしそうに、私を横目で見ていましたから、
「いや、ママ・・・、ボクの耳も、ほら、こんなに・・・」
自分も、やられたことを強調して、なんとか、この場を取り繕おうとしましたが、そんな話は、まるで眼中にないラントムは、
「なんでなの・・・(涙)。どうして、こうなったの・・・(大涙)」
ひたすら、息子だけを心配しているようでした。

このままだと、彼女から糾弾され、今度は私が、ボコボコにされますから、
「きよみ・・・、パパは、ちょっと、用事が・・・」
私は、そそくさと、この場から逃げ出しました。

(この話は続きます)
by phuketbreakpoint | 2010-01-28 13:34