タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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命がけ

ピンポーン、ピンポーン・・・・、真夜中の3時過ぎ、けたたましく玄関のチャイムが鳴り、私は、叩き起こされました。
眠い目を擦りながら、1階に下りて行くと、ブレイクポイントで宿泊するイタリア人の若者が3人立っています。ミラノから車で1時間ほどの田舎町から12人で来たという、このグループは、8つの部屋に分かれて、うちのホテルに泊まっていました。

「ボナ・セーラ(こんばんは)、どうしました?」
私が聞くと、
「泥棒を捕まえたから、警察を呼んでくれ」
と、中の1人が答えます。
レストランに入っていくと、大勢のイタリア人たちが、怯えて、うずくまる、タイ人の男を取り囲んでいました。見ると、男は身ぐるみ剥がされて、スッポンポンの状態で、両手を股間に当てながら、泣きそうな目で、
「ピー(アニキ)、信じてくれよー、オレは、何にも、やってないんだよー」
と、訴えかけています。取り囲むイタリア人たちは、みな鬼の形相で、これだけ見ていると、どちらが悪人なのかわかりません。

このグループは、真夜中にビーチに出て、全裸で泳いだ後、ホテルに戻り、各部屋を行ったり、来たりしながら酒を飲み、毎晩大騒ぎして、他の宿泊客に迷惑をかけていましたから、私も、そろそろレッドカードを出して、出て行ってもらおうかな、と思っていた矢先でした。
ビーチから、彼らの後をつけてきた泥棒は、スキを突いて、空いていた部屋に侵入したようですが、戻ってきた女性に目撃され、慌てて外に逃げ出します。これをグループの男性が全員で追跡し、100mほど離れた宝石屋ワールドジェムの辺りまで男が逃げたところで追いつき、御用となりました。寄ってたかって、袋叩きのような状態にされ、ホテルまで連れ戻された男は、逃走防止のためか、来ている服を全部剥ぎ取られ、哀れな姿を晒すことになってしまったのです。

イタリアといえば、泥棒のメッカとも呼ばれ、まるで、国民全体が窃盗犯みたいな印象(失礼)がありますが、そういった非合法な稼業に従事している人は、やはり、少数派なのでしょう。真面目に暮らしている大多数の人たちは、窃盗の多さに、いつも苦労していますから、ドロボーを見つけたり、捕まえたりしたときの対処法も、ついつい過激になってしまうのかもしれません。

泥棒男を車に乗せ、私とラントムは、グループの代表3人と共に、パトン警察に向かいました。ちょっと、可哀想な気もしましたが、警察に引き渡した方が、ここで、イタリア人たちの裁きに任せるより、彼にとっても、身のためというものです。
警察署で男を引き渡し、調書を取ってもらいましたが、対応してくれた警察官の最後の言葉が気になりました。
「でも、アンタら、何も被害は無かったんだよねえ・・・」

この場は、それで帰ったのですが、その日の午後、我々の調書を取ってくれた警官が、うちまでやって来て、私に、こう聞きます。
「今朝の件、あなたは、裁判まで持ち込むつもりなの?」
裁判に持ち込むもなにも、家宅侵入の現行犯逮捕なんですから、お咎め無しっていうわけには、いかんでしょう、これは・・・等と思いながらも、私が口を濁していたら、警官は、
「裁判になると、いろいろ面倒なことに、なっちゃうんですけどねえ・・・」
なんて言っています。確かに面倒なのは分かるんですが、それが社会正義のために働く警察官の役目なんじゃあ、ないでしょうか。私がハッキリと言わなかったこともあり、この人は、
「じゃあ、こっちで、適当にやっといて、いいですね」
と、釘を刺すように言うと、
「それじゃあ、そういうことで・・・」
と帰ってしまいました。

「そういうことって、どういうことだ?」
と、思いながら、タイ語の細かいニュアンスが解らない私は、警官を笑顔で見送っていたのですが、考えているうちに、だんだん不安になってきました。
タイの警察は、金になりそうもない事件では、あまり積極的に動いてはくれません。被害者の数が多かったり、被害者が子供であったり、社会的に大きな関心を呼んでいる事件では、警察の面子も懸かっていますから、全力で捜査して、見事、犯人を検挙しますが、それ以外の事件では、調書を取って、それでお終いとなってしまうようです。やる気があるときと、ないときの差が、とても激しい人たちだと言えるでしょう。
以前、トランにいた頃も、こんなことがありました。

私が住んでいたゴム園の向かいに、ティーさんという初老の女性が暮らしていました。実は、ティーさんの夫は2年前、ティーさんの娘ヌンさんの亭主に、こん棒で殴られ、殺されているのです。夫を娘婿に撲殺されてしまったティーさんですが、悲しみの中、娘の夫まで警察に持っていかれるのは耐えられない、と考えたようで、涙を飲んで、警察には事故死と報告しました。
いくら嘘をついたところで、プロの警察官が死体を見れば、そうでないことは一目瞭然だったと思います。しかし、タイの田舎の警察は、被害者の家族が事故だと言い張っている事件の真相を、わざわざ暴きたてるようなことはしません。家族の報告どおり、事故死として処理しました。

夫を殺され、失意の中、娘婿だけは、なんとか守りとおしたティーさんでしたが、2年後、秘密は、思わぬことから綻びてしまいます。
亭主が殺された後、一人で生活していたティーさんのもとに、ある日、クローさんという、見るからに怠け者の男性がフラリと現れ密着し、うまく取り入って、まんまと後釜の亭主の座に転がり込んでしまいました。
ところが、さすがにクローさんは、ろくでなしです。働きもしないで、ブラブラしているだけなら良かったのですが、酔っ払った挙句に、ヌンさんの亭主に絡んで殴られてしまい、その腹いせに、パリアン(近所の役場所在地)の警察署まで出かけていって、事件のことを、全部バラしてしまいました。
敢えて波風は立てたくなかったパリアン警察も、市民からの情報が入った以上、捜査せねばなりません。聞き込み捜査の結果、2年越しで、この事件は解決することになってしまいました。

事件直後から、周りで暮らす人たちは、誰が殺し、犯人が今、どこに潜んでいるのか、みんな知っていました(もちろん、外国人の私もです)。夫や父を殺され、断腸の思いで嘘の報告をした母娘の秘密が・・・、近所の人たち、みんなで協力して、守り続けたこの秘密が・・・、1人の飲んだくれオヤジの密告で、すべて、パーです。
「ろくでもない男と一緒に暮らすくらいなら、犬でも飼っていた方が、よっぽどマシ」
ラントムの女友達で42歳独身ラシーさんの言葉が、このときは、やけに実感としてわかりました。

「さっきの、あの言葉、あれ、どういう意味なんだろうねえ・・・?」
警官が帰った後、私がラントムに、そう訊ねると、彼女も、はっきとは答えませんでしたが、
「でも、あの調子なら、このまま逃がしちゃうんじゃないかしらねえ・・・」
なんて言っています。
「それって、ちょっと、ヤバくない?ほとぼりが冷めた頃、仕返しにでも来られたら、大変だよ」
私がそう言うと、やっぱり、彼女も心配になってしまったようで、夕方、二人でまた、パトン警察に行くことになりました。

「すいません。あのー、今朝の件なんですけど・・・、やっぱり、もうちょっと、考えた方がいいんじゃないかなあ、なんて思いまして・・・」
担当警官に、私がそう言うと、
「考える?考えるなんて、今頃言われてもなあ・・・、もう逃がしちゃったよ。でも、大丈夫。しっかり、焼きは入れといたから、安心して」
私も、ラントムも、そう言われてしまうと、もう返す言葉はありません。しかし、「安心して」と言われてもねえ・・・。
もう済んでしまったことですから、どうしようもありませんが、これを、あのイタリア人グループに、どう説明すればいいんでしょうか。

「まずいことに、なったなあ・・・」
等と思いながらお店に戻ってくると、運悪く、イタリア人のグループと、ホテルの裏でバッタリと鉢合わせです。
「あの泥棒、どうなるんだい?」
彼らは早速、聞いてきました。
「えっ?まあ、その・・・・、そりゃあ、懲役刑に決まってますよ。当たり前じゃないですか。タイだって、法治国家ですよ」
もう、逃がしちゃったなんて、とても言えるような雰囲気ではありませんでしたから、私も、その場を取繕うように嘘をつきました。私の答えに、みんな、とても満足そうな様子です。
「まあ、少なくとも、5年くらいは、入れられるんじゃないですか」
5年もなにも、とっくに釈放されちゃってるんですけど・・・。

イタリア人たちは、みな満足そうに、大きく首を縦に振りながら、笑顔で夜の街に消えていきました。そんな彼らの後姿を見送りながら、私は思ったものです。
「もし、プーケットで食い潰して、泥棒しなきゃならない状況に追い込まれても、絶対にイタリア人にだけは、捕まっちゃあダメだ!」
みなんさんも、覚えておいてください。
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by phuketbreakpoint | 2007-01-19 00:37