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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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痛恨

高知県・菱和高校(仮名)に、県外専願受験で、どうにか、もぐり込んだ、あきおと、なおこの2人は、桜の花が咲き乱れる、2008年4月、誂えたばかりの制服に身を包み、入学式を迎えていました。
「なおこ、よく似合ってるわよ」
「あきおも、しっかり、頑張ってね」
立派に成長した子ども達の晴れ姿に、母であるラントムも、とても満足そうです。
「2人とも、かっこいい!」
妹の、きよみも、そんなことを言って、兄や姉を冷やかしていましたが、2人が自然に恵まれた高知の地で、勉強に、スポーツに、大いに励んでくれると、私も信じていました。なおこと、あきおの学生生活は、前途洋々だったといえるでしょう。


「あのー、わたくし、菱和高校で、あきお君の担任をしている・・・」
半年後の10月21日、高知から国際電話がかかってきました。
「実は・・・、あきお君に、問題が起こりまして・・・」
4月の入学以来、厳しい校則を守らねばならない、菱和での生活に
「果たして、あの子が、耐えていくことができるのか?」
ずっと、私は心配していましたが、それが現実となってしまったようです。
(あきおは、一体、何をやらかしたんだ・・・)
スーッと、全身から血の気が引いていくのを感じつつ、私の脳裏には、考え得る、様々な違反行為が浮かんできました。

“酒、タバコ”
これは、一番考えられるケースです。男の子なら、一度は、通る道なのかもしれません。
大人の真似をしたくて、やってみたくなる、その気持ちは、わからないでもありませんが、せっかく入った高校生活を、そんなことで棒に振るとしたら、なんと愚かなことでしょうか。

“寮生活が嫌で脱走”
これも、想定内の話です。
菱和では、寮生活に耐えられず、脱走を試みる者が、毎年必ずいるそうですが、未だかつて、学校関係者の追跡、検問の網を破って、逃げきった者は、いないと聞きます。山道で、ギブアップするか、駅や、空港で張っていた先生に捕まって、連れ戻されるそうですから、
「逃げも逃げたり、数千キロ。高知の山奥から、プーケットまで、見事逃走してきた!」
というのなら、学校史上初の快挙ですから、
「お前、よく、戻ってこれたねえ・・・」
怒るよりも、私は、大いに感心したことでしょう。どうせ処分を喰らうなら、聞いた人を、唸らせる(?)ようなことをやってほしいものです。

“女子寮に忍び込んで、好きな女の子に夜這いを敢行し、現行犯で捕まった”
これも、学校創立以来の不祥事でしょうが、父の夢(?)を実現した、見上げた息子と言えなくもありません。
「バカ野郎、なんちゅうことをしてくれたんだ・・・・。でも、お前も、なかなか、根性あるんだねえ」
もしかしたら、肯定的な評価をしてしまうかもしれません。

ところが、この日の電話は、そんな感心するような内容ではありませんでした。
“ガスパン”
スプレー式の調理用ガスを、ビニール袋に入れて吸引する遊びが、今、中高生の間で、密かに流行っているそうです。酒や、タバコを未成年者が購入するには、ある程度、監視の目を潜る必要がありますが、調理用ガスには、なんの規制もありません。
子どもにとって、簡単に手に入る、お気軽な刺激物といったところなのでしょうか。

昔は、不良には、不良なりの美学というものがありました。
私の周りにも、“愛すべき、バカな不良”が何人もいました。
“喧嘩に強くなって、女の子に、モテたい”
そんな単純な思いから、極真空手を始めたものの、いつの間にやら、ハマってしまい、練習に障るという理由から、自慢のリーゼントも、バッサリと切って、ますます、女にモテなくなってしまった者。

ナンパに明け暮れ、複数の女の子に手を出してきたくせに、本命相手だと、まるで、だらしがなく、いつも、「さん」付けで呼んでいるうちに、結局、手も握れないまま、自動消滅してしまった者。

憧れだった、オートバイを手に入れ、スペクター(デーブではありません)に入団し、毎週末の暴走行為で、
「オレは、命を賭けて走ってるんだ!」
と、言っているうちはよかったのですが、走行中に転倒し、後ろから追走していた仲間の乗用車に刎ねられ、ひき逃げされ(気が動転して、逃げてしまったようです)、救急車も呼んでもらえず、実際に命を失ってしまった者。

こんな男たちでも、それなりの美意識を感じさせてくれたものです。
ところが今回、あきおの問題を先生から聞いたときの私は、そんな美しさは、微塵も感じることができませんでした。
「なんで、あんな、つまらんことを、やったんだ?」
数日後、あきおの口から動機を聞くと、
「タバコが買えなかったんだ・・・」
現在の日本国では、未成年者がタバコを吸おうにも、なかなか手に入らない時代になってしまったようですが、それにしても、冴えない話だと思いました。

「ご足労ですが、すぐに、高知まで来てください」
依然として状況が、よく理解できなかった私は、
「来週、行く予定なんですが、それでは駄目でしょうか?」
と、聞き返しましたが、先生の返事は、
「いえ、すぐに、来ていただきたいのですが・・・」
有無を言わさぬものでした。一週間が待てず、プーケット在住の私に、「すぐに、来い」というのですから、学校側は、かなり重大な決意があるということでしょう。
電話を切り、私は、すぐにツアーデスクに連絡を入れ、国際線の予約を変更し、国内線の予約も、ホテルの予約も、全部キャンセルして、支度にかかります。バッグに着替えや、貴重品を詰め込みながら、
「バカだなあ・・・、本当に、バカだなあ・・・・」
なんとも情けなくて、そんな言葉が、何度も口をついて出てきてしまいました。

「パパ、チャイ・ジェン・ジェン(冷静に)ね。カッとなって、闇雲に(あきおを)、怒ったりしたら、駄目よ。お願いだから、冷静に・・・」
何度も、何度も、すがり付くように念を押す、女房のラントムに見送られ、私は、夕方、タクシーに乗り込みました。
“ゆったりと、大き目の柵を作っておいて、その中で、放し飼い”
これが、私の教育方針でしたから、子どもたちが柵の中に留まっている限りは、多少のことは、大目に見てきました。
しかし、その柵を越えて、出て行こうというのであれば、力づくでも、押し止めておかねばなりません。
“事と場合によっては、ぶん殴ってやろう”
そんな思いを胸に、私は車に揺られていました。

この話続きます。
by phuketbreakpoint | 2009-10-05 10:49