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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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栄光のアディダス

プーケットに来て、まだ日が浅かった頃、中国系タイ人が経営する商店を見て、気が付いたことがありました。
従業員に指示を出したり、お客の相手をしたり、電話を受けて注文を取ったり、代金をもらって、お釣りを出したり等、商売に関することは、ほとんど、すべて奥さんが仕切っていて、小さな子供がいる場合は、子供の面倒まで見ています。それでは、亭主は何やっているかといえば、周りでウロウロというか、ブラブラというか、近所のおじさんたちとバカ話していたり、椅子に座ってテレビを見ていたりで、仕事らしい仕事といえば、銀行に行っての入金確認と送金くらいです。
「どうしてなのかなあ」と、長年、不思議に思っていましたが、最近ようやく、そのカラクリが分かってきました。男たちは、確かにブラブラして、ほとんど働いている雰囲気はありませんが、流行っているお店になればなるほど、そのブラブラには、はっきりと、1つの条件が付いているのです。
彼らのグータラ、ブラブラは、あくまで奥さんの目が届くフィールド内に限定されており、男たちは、この絶対条件を満たしながら、働く奥さんたちに安心感を与え、日々の業務を円滑に運ぶための潤滑油のような存在になっているように感じます。逆に言うと、この条件を満たしていない場合は、大変なことになってしまうということですね。

 レストラン「チェリー(仮店名)」を経営する石井さん(仮名50歳)は、そのおかげで、何度となく、とんでもない目に遭わされています。
この人は、仕事が終わった後、視察と称して、よくバングラー方面に出張していきますが、これは明らかにフィールド外で、奥さんの守備範囲から完全にはみ出しています。朝帰りしたある日、とうとう待ち構えていた奥さんに、バッサリやられてしまったようで、背中に刀傷ができてしまいました。しかし、石井さんは、そんな目に遭いながらも、まったく反省する様子がなかったようで、同じようなことを繰り返しているうちに、刀傷は、アッという間にアディダスに。それでも、まだ懲りていないようですから、そのうちに星条旗のような背中になってしまうことでしょう。

タイの人は、男も女も、逆上すると、すぐに凶器を手にして、実際、これを使ってしまいますから、タイ人と付き合っている人は注意したほうがいいと思います。カッとなったそのとき、視界に入る一番強力な凶器を、とっさに手に取り、攻撃を仕掛けてきますから、死にたくない人は、決して自分の奥さんや彼女を、けしかけたりしてはいけません。
昨年まで、パトンビーチでナイトクラブを経営していた佐野さん(仮名36歳)も、些細なことからタイ人のガールフレンドと口論となり、カッとなった彼女は、近くに置いてあったビール瓶を手に取りました。
「タイ人にしては、ずいぶん控えめな凶器だなあ」
と思ったのも束の間、彼女は、ビール瓶の口の方に握りを反すや、瓶の底の部分を壁にぶち当て、カチ割ってしまいます。ビール瓶は、一瞬にして残忍な凶器に姿を変え、彼女は、ギザギザになった部分を佐野さんに向けて、威嚇していたそうですが、こういうケンカのやり方は、日本では、ヤクザ以外はしないでしょう。

私も何度、女房のラントムに殺されかけたことか・・・。
金属製の中華包丁を、手裏剣のように使っていたラントムは、ある日、とうとう、これを真っ二つに叩き折ってしまいました。投げた包丁が、コンクリの柱に当たってしまい、柄の部分からポッキリと折れてしまったのです。
「当たり所が悪かった」
と本人はごまかしていましたが、それでは、私に当ってしまったときは、何と言うんでしょうか。
どこに飛んでいくかは運次第の、彼女の手裏剣攻撃は、刃物が彼女の手を離れてしまったら、もう防ぐ手立てはありません。結婚当初は、私も、そういった攻撃は想定外でしたから、ずいぶん無謀なことを言ってしまったものです。
「やれるもんなら、やってみい!」
そう啖呵をきった次の瞬間、グサっと、私の頭の右50センチほどのところで、中華包丁が棚に突き刺さっていました。一時は、真面目に、真剣白刃取りの練習をしようかと思ったこともありましたが、もっと、いい方法を考えつくことができました。危ないときは、すぐに一番近くにいる子供の背後に隠れてしまえば、やられることはありません。安全地帯ですね。これは、かなり確実な防御法ですから、みなさんも覚えておいて損はないと思います。

それでもラントムは、きよみの後ろで逃げ隠れする私に向かって、中華包丁片手に、今にも切りかからんばかりに叫びます。
「きよみを離せ」
「いやだ」
「早く離せ」
「いやだ、離したら殺される」
「いいから離せ」
「絶対に離さん」
殺し合いのような親のケンカに挟まれ、間にいるきよみは、怯えて泣き続けていますが、ここで彼女の迫力に押されて、この子を手放したら最後、手裏剣が飛んできますから、こっちも必死です。専守防衛に徹していた私は、あの包丁が折れてしまったときは嬉しかったですねえ。もう多少不便なことがあっても、大型の包丁は、2度と買いません。

しかし、こういう修羅場になってしまうのも、私がタイ人の夫婦喧嘩のやり方を、未だに理解していないせいなのかもしれません。もう何十年も、とんでもないことを、やり続けているラントムのお父さんですが、お母さんから、そんなひどい目に遭わされたことは、ただの一度もありません。タイの夫婦喧嘩には、何か暗黙のルールみたいなものがあって、男性側が、必ずとらればならない「お約束」のリアクションがあるようですね。それをやらないから、あるいは間違ったリアクションをしているから、彼女は、ますます逆上してしまうのでしょう。

彼女にとって、私の行動や言葉が正しいのか、間違っているのか、そんなことは、どうでもいいようです。
「私がこれだけ怒っているのに、なんでアナタは、そんな態度なのよ」
と、そう言いたいのかもしれません。お父さんのように、決して逆らうことなく、ひたすら低姿勢で、じっと嵐が過ぎていくのを待ち、お母さんの怒りが、ほんの少し弱まった頃を見計らって、すぐに密着し、一生懸命尽くして、どんなことがあろうとも、決して5m以上離れることはありません。サッカーの日本代表にも、これくらいマンマークできる人がいれば、絶対に失点しないでしょう。
この密着マークを2-3日続けているうちに、お母さんの怒りは、だんだんと収まり、また元のサヤに戻ってしまうわけです。しかし、30年もの間、いつも同じ手口で騙されてしまうお母さんの性格にも、困ったものですが・・・。

どんな大暴風雨でも、じっと我慢して、耐え忍べば、いずれは通り過ぎて、また青空が戻ってきます。子供の頃から、ずっと自然の中で暮らしてきたお父さんには、それが分っているのでしょう。
私も、そんなお父さんを見習うべきなのかもしれません。
by phuketbreakpoint | 2006-06-15 10:50