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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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私を検査に連れてって

2002年12月、
Sさんのお見舞いに出かけた翌々日、ラントムは、嫌がるお父さんと兄・トゥアンの2人を、パトン・ホスピタルに連れていきました。
「Sさんも、あんなことになっちゃったんだから、油断できないわ」
元気だったSさんがエイズ発病後、急激に衰弱してしまったことに衝撃を受けたラントムは、普段から行状の良くないこの2人に、かなり強い疑惑を感じていたようです。

この時期は我が家だけでなく、プーケット在住の日本人たちの間で、、その噂は、持ちきりでした。特に、身に覚えがある男性たちは、大きなショックを受けていたようで、
「おい、聞いたかSさんの話」
「うん、恐いねえ、ホントに」
「お前は大丈夫なのか?」
「オレは大丈夫だよ・・・、多分」
みんな根拠もないのに、自分だけは大丈夫だ、と信じたかったようですが、じゃあ、本当に大丈夫なのか、と突っ込まれると、言葉に詰まってしまいます。慌てて検査に行く者、もう諦めてしまったのか開き直る者など様々で、あの頃は、まな板の上のコイの心境だった人は、多かったのではないでしょうか。

私ですか?
私は大丈夫です。私はずっと、清く、正しい生活を送ってきましたからね・・・結婚後は。
それじゃあ、結婚前は、どうだったのかと問われれば、叩けばホコリが出る、というよりも、数年間、掃除したことがないエアコンのフィルター、といった状態で、根詰まりして、こびり付いて、ホコリも出ないというか・・・。
新婚当時のラントムも、私の過去に疑惑を抱いていたようで、やはり、強制的にカトゥーホスピタルに連れていかれ、検査を受けたことがありました。
受付で通された場所は、正門から入ってすぐ右脇にある、できたばかりのバラック建のような小さな建物でした。聞けば、その日スタートしたばかりのエイズ検査専用コーナーだそうで、中に入ると、「あなたが記念すべき第一号の来訪者」だと歓迎してくました。

診察室に通されると、まず専門医のカウンセリングがありました。
私が思い当たる節を説明していくと、女医さんは、各々の危険度を、1つ1つ解説してくれます。
「そうですか、それは、ちょっと危ないですね」
「ええ、これも危険行為にあたります」
「はい、やはり安全とは言えないですね」
「それもダメです・・・・ちょっと、あなた、いつくあるんですか」
こんなやり取りの後、ようやく別室に回されて、いよいよ検査が始まりました。

ブチっと左腕に刺された針から、注射器に吸引されていく、濃い朱色の血液を見ていると、自分のものでも、なんだかとっても、バッチイものに思えてきてしまいます。
「神様、どうかシロでありますように」
そう考えるのは、検査を受けた人なら、誰しも同じだと思いますが、当時は結果がわかるまで、なんと1週間も待たねばなりませんでした。そして、この1週間が、あんなにも長く、辛いものになろうとは、検査前には想像もできませんでした。すぐに結果がわかる、今のシステムは本当に羨ましい。

何度も、何度も検査結果を予測し、「大丈夫だろう」と自分に言い聞かせ、そのすぐ後に、「でも、もしかして・・・・」と弱気になったり。そんなことを1日中、しかも7日間、ずっと繰り返していたのです。
この恐怖の数日間がようやく終わり、恐る恐るまた病院に行って、「シロ」の判定を聞いたときは、本当に嬉しかったですねえ。
大学の合格発表でバンザイした帰りに、好きだった女の子に告白し、OKの返事をもらった・・・、そんな気持ちだったでしょうか。


恐ろしいエイズウイルスといっても、感染ルートは、血液、母乳、(男性の)精液、(女性の)膣分泌液の4つしかありません。このうち母乳は、成人には関係ありませんから、残りの3つに、いかに関わりあったかが、勝負の別れ道ということになります。専門家の話によると、このうち精液と膣分泌液の2つは、コンドームの使用によって、ほぼ100%ウイルスをシャットアウトできるということです。
しかし、タイの田舎の遊び人は、コンドームなんか絶対に使いません。ラントムのお父さんや、トゥアンも例外ではなかったでしょう。そして、お父さんが、あちこちで、つまみ食いしてきた女性たちは、見るからに汚らしい感じの人が多く、HIVウイルス以前に、もっと悪い病原菌をいっぱい持っているんじゃないか、そんな気さえしてきます。

それじゃあ、トゥアンの方は、どうかと言えば、お父さん以上にグレー、というより、ほとんどクロに思えて検査するだけ無駄のようにも感じられました。まず、長年のムショ暮らしの間、ずっと言われてきたのがホモ疑惑です。
「同じ牢に入ってるサックは、とってもいいヤツなんだよ。今度、出たら紹介するから」
面会に行ったら、聞いてもいないのに、そんな話ばかりしているトゥアンを見て、
「2人は、多分デキてるんじゃないかしら」とラントムは、よく噂していたものです。出所後も、とっかえひっかえ、どこで探してきたのか、身持ちの悪そうな女とばかり付き合ってきましたから、これだけでも、かなり可能性は高いと思われました。
これに加え、薬物も大好きですから、もう感染ルートのトリプルクラウンです。私とラントムは、「検査の結果がどうか」というより、クロの判定を受けた後、「どうすればいいか」に関心が移っていました。

ところが、採血して15分後に出てきた結果は、意外にも、2人とも陰性反応だったのです。
お父さんは、1人の女に深入りすることなく、ヒット・エンド・ランに徹していたのが幸いしたようです。たとえ、相手の女性がHIVに感染していたとしても、膣分泌液に含まれるウイルスの量は少なく、1回や2回の性行為では、まず感染しないそうです(諸説ありますが、その可能性は1%から0.1%だと言われています)。お父さんは、レッドゾーンの上を綱渡りするように、ウイルスから逃れ続けてきたのでしょうか。
そして、トゥアンの場合は、単なる好運だったと思います。彼の場合は、お父さんと違って、手を付けた女には、必ず深入りしていましたから、もし相手がウイルスを持っていれば、確実にアウトだったでしょう。薬物も、注射系のものは、高くて手が出ませんから、安物のガンジャ(マリファナ)を吸い続けたことが幸運につながったようです。

「危険だから、気をつけたほうがいいですよ」
Sさんの発病を知った後は、お店に来られたお客さんと、そういった話になったとき、私はいつも、こうアドバイスしていましたが、グレーな2人が、無事シロと判定された後は、
「大丈夫ですよ。やっぱり、あの病気は、簡単には感染しないみたいですよ」
と、自信を持って答えることができました。あの2人がシロなら、クロの人は、そうはいませんね。

エイズ治療の進歩は目覚しく、体内に入り込んでしまったHIVウイルスを、完全に撃退することはできないものの、発病させないで封印することは可能と言われています。発病前に感染がわかっていれば、死ぬ人はほとんどいないそうです。
ですから、身に覚えがある人は、早いうちに検査に行かれたほうがいいのではないでしょうか。
プーケット在住者でも、身に覚えのある人、いっぱいいますね。
みなさん、大丈夫ですかー。
by phuketbreakpoint | 2006-05-23 11:03