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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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奇跡の人

「お父さん、また女遊びですか?」
そう言われ、一瞬驚いた表情を見せた女房ラントムのお父さんですが、すぐさま「マーイ(いや、ちがう)」と否定しました。この人の凄い所は、例えそれが動かしがたい事実であったとしても、間髪入れずに否定してみせることです。顔には、「どうして、そんなデタラメを・・・」といった表情を作り、聞いてもいないのにアリバイ解説を始め、最後に必ず、こう付け加えます。
「ウソじゃない」
少年時代、「嘘じゃないよ、本当だよ」、そう言う奴に限って、嘘つきだった、という記憶がありますが、お父さんの話も、その類なのでしょう。

でも、これは教育上、本当によくありません。お父さんが見え見えの言い訳をしているとき、廻りには孫たちがいっぱい(8人)いるわけです。物心ついた頃から、お父さんの「嘘がバレても、即否定」を学習してしまうと、大きくなって、同じような事をやるかもしれません。わたしの子ども達が幼少の頃、お父さんと一緒に暮らす期間が短かったのは、いまさらながら本当によかったと思っています。

タイには、いい所、悪い所、勿論いろいろありますが、わたしの個人的な意見を言わせてもらえば、タイで最も良くない点は、真顔で嘘をつける子供がいることだと思います。ラントムのお父さんだけでなく、同じようなリアクションを繰り返している人は、少なくないのかもしれません。今の日本は、どうか分かりませんが、昔は、嘘をつこうとしても、オドオドして、すぐにバレてしまったり、先生から「嘘つくな」と言われ、無言になってしまったり、今考えると、みんな正直で、いい子供たちだったと思います。

お父さんは、ラノットの田舎に住んでいた頃は、普段はサロンと呼ばれる腰巻き一枚の姿ですから、格好を見れば、どこかに行くつもりかどうか一目瞭然でした。靴を一足しか持っていませんでしたから、姿が見えない時でも、靴がなくなっていれば、すぐにバレてしまいます。どこかに行くといっても、用事なんかありませんから、「遊びに行ったんだな」と廻りの人は、感づいていました。

こんなお父さんに、じっと辛抱しながら耐え続けてきたのがラントムのお母さんです。耐えるといっても、タイ人は日本の演歌のように、辛気臭いイメージは全然なく、カラッと明るい人生を送っています。そして我慢できなくなったら、次の男を見つけ、去っていくのです。タイの女性はタフですね。
お父さんとお母さんは、そもそも馴れ初めがムチャクチャで、わたしもラントムから話を聞いて唖然としました。日本でなら、いや、タイを含めて法治国家なら、どこでも完全に犯罪だと思います。

それは、お父さんが18歳の頃の話です。お母さんは、一歳下の17歳で、お父さんは前々から、村に可愛い娘がいると目を付けていました。ある日、町で祭りがあり、お母さんは両親に連れられ出かけていきました。祭りの会場で、たまたま、お母さんとすれ違ったお父さんは、ある計画を思い付きます。タイの田舎には、当時は公衆便所なんてありませんから、トイレに行きたくなったら、どこか人目に付かない所に行って、用を足すしかありません。お母さんも両親から離れ、ちょっと寂しい場所に行ってしまったそうです。
「チャンス!」
そう思ったお父さんは、お兄さんと2人で、お母さんを強制的に自分の家まで連れていってしまいました(そういうのは日本では、拉致、あるいは誘拐というんですよ、お父さん!)。お父さんの家に隔離されたお母さんは、一週間後に、ようやく家に帰る事が出来ましたが、お母さんの両親(つまりラントムの祖父母)は、「パン(お父さんの本名プラパンの略)を殺してやる!」と殺気だっていました。当然の反応ですが、当時は、一旦こういうことになってしまった女性は、他に嫁の貰い手がありませんから、おじいさんとおばあさんは、悔し涙を飲み込んで、お父さんとの結婚を認めざるを得ませんでした。

ただ、お父さんは、今でも笑顔がチャーミングで、話も面白いですから、若い頃は随分モテたようです。お母さんも、憎からず思っていたのかもしれません。そうじゃなければ、やっぱり必死で抵抗したんじゃないでしょうか。しかし、これを、お母さんに言ったら、こう返されてしまいました。
「何言ってるの。ピストル持ってたのよ」
・・・・これも犯罪ですね。

この後の人生を真面目に生きていたのなら、おじいさん、おばあさんの怒りも静まったのかもしれませんが、お父さんは、次々に問題を起こしていって・・・。お父さんの話を書いているだけで、何十巻もの大作ができてしまいますから、これで止めますが、ラントムのおじいさんが死ぬ前に、改めてみんなに言ったセリフがあります。
「わしが死んでも、絶対にパンには、わしの棺桶を持たさんでくれ」
わたしも3人の娘を持つ親として、おじいさんのこの気持は、よーく分かります。

最近プーケットでは、真面目に働き、女遊びもしない、タイ人の風上にも置けない男が急増中で、わたしを嘆かせていますが、ラントムのお父さんは、昔ながらの歴史と伝統を守り続けているのです。タイに人間国宝というものがあれば、指定されるかもしれません。
飲む、打つ、買う、夢の三拍子を兼ね備えた奇跡の人、それがラントムのお父さんだと言えるでしょう。
by phuketbreakpoint | 2005-11-03 12:33