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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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お医者さまは神様です

「あれ? まだ9時半なのに、もう先生来ちゃってるぞ」
最近パトンビーチのカトゥー・ホスピタル(現パトン・ホスピタル)で、お医者さん達が、ちゃんと朝から働いているのを見ると ビックリさせられます。

この病院は、一応24時間の緊急医療体制完備と謳っていますが、シフトが無茶苦茶いい加減でした。お医者さん達は、一人8時間の3交代制の筈ですが、みんな大幅に遅刻出勤し、早々に仕事を切り上げ、早退していきますから、交代時間の前後4時間程の間は、誰もお医者さんがいない空白の時間が存在していました。
これがたまにならいいのですが、連日でしたから、どうして問題にならなかったのか不思議です。急病や大ケガするときも、時間を選んで、うまくタイミングを合わせて、運び込まれないと命を失うことになります。

私たち家族がプーケットに移り住んだ頃のことです。
ある夜寝ていたら、何の前触れもなく、
「寒い、物凄く寒い。どうしたんだ・・・?」
毛布に包まってガクガク震えていたら、しばらくして、今度は体が猛烈に熱くなり、汗が吹き出してきました。
「これは高熱が出ているな」
はっきりと自分でも分かる状態です。時間が真夜中でなかったら、すぐに医者に駆け込みましたが、とりあえず朝まで我慢することにしました。

翌朝、カトゥーホスピタルの実状をまだよく知らなかったわたしは、愚かにも朝一番の時間帯に合わせて行ってしまいました。病院では、わたしよりも先に5-6組の人が、すでに待っていました。
しかし、受け付けや看護婦さんたちは仕事を始めていますが、お医者さんが来ていないようで、待てども待てども、誰一人として名前を呼ばれません。この間、看護婦さんが熱を計ってくれましたが、体温計を見るなり彼女もビックリです。39度ありました。

2時間ほど待った10時過ぎ、ようやく最初の1人目が呼ばれ、診療開始です。さんざん待たされましたが、ひとたびスタートすると、順番の廻りは驚異的なスピードでした。一人60-90秒くらいでしょうか。秒の闘いですね。
診療が始まって5-6分で、すぐにわたしに順番が廻ってきました。診察室に通されると、メガネを掛けた、ちょっと性格のキツそうな女医さんが座っています。
「どうしました?」
わたしは下手なタイ語と英語を使って昨夜の状況を説明しました。わたしの説明も終わらないうちに、この先生は、あっさりと、こう言います。
「風邪ですね」
「うそだろう!? こんな風邪あるわけない」と思いましたが、プーケットで生活し始めて、まだ4-5ヶ月の頃でしたので、もしかしたら、タイの風邪は、こういう症状なのかもしれないと、これを認めてしまいました。本当にバカでした。
先生は、無駄に時間を喰っている場合じゃない、と思ったのか、もう一言、「注射打っときますか?」とわたしに尋ねます。わたしは、さんざん待って問診だけ、というのも空しいので、
「じゃあ、お願いします」と打ってもらう事にしました。
すぐに隣りの部屋に移され、わたしに対する先生の診察時間は終了です。この間、約60-70秒だったでしょうか。

このとき打たれた注射は強烈でした。
それまでの人生で打ってきた数々の注射が、土下座してしまう程のダントツでナンバー1の痛みです。打った場所がお尻だったためなのか、それとも注射自体が痛かったのか、打ち終わった後、看護婦さんに、「帰っていいですよ」と言われたのですが、余りの痛さに起き上がるのも、ひと苦労です。それでも、全身の力を絞り出すように立ち上がったわたしは、ヨレヨレの状態で診療室の外に出て行きました。KO寸前のボクサーのように、一歩一歩、物凄い、しかめっ面で、踏みしめるように歩くわたし・・・。
その時の、わたしの形相が余りにも壮絶だったようで、さっきまで一緒に順番待ちしていた白人のおじさんの、わたしを見るなり顔に出した驚愕の表情が、逆にわたしを驚かせました
(今の俺って、そんなに悲惨?)
きっと、このおじさんは、こう思っていたはずです。
「どうしたんだ、この日本人は・・・。ついさっきまで、ちゃんと歩いていたのに、どうして急にボロボロになっちゃったんだ。この病院、危ないんじゃないか!?」

病院で渡された薬を一週間ほど飲み続けましたが一向に良くなる気配はありません。当たり前ですね。風邪じゃないんですから。食欲はゼロ、というより何を食べても苦い味しかしません。水を飲んでも苦かったんです。
それより最悪だったのは、何かを考える事すら気だるいような脱力感でした。何も喋らず、ぼんやり座っているわたしに、女房のラントムが、とうとう怒りだしました。
「アナタ、いい加減にして。まるで半分死んでるみたい」
いい加減にして、と言われても、どうにもならないから仕方ありません。終いには、
「これは、きっとエイズに違いない」と病名まで決められてしまいました。

ラントムに追い立てられるように、翌日、わたしはカトゥーホスピタルに見切りをつけ、プーケットタウンのソムポット病院に行くことにしました。こんな状態になりながらもトゥクトゥク代150バーツ(当時)を節約するために自分でバイクを運転して行った、わたしのケチは筋金入りだと分かりました。

ソムポット病院では、それ程待たされることもなく順番がきました。
今度は男性の先生でしたが、問診したら、また、こう言います。
「風邪ですね」
今度は、わたしも間髪いれずに反論しました。
「先生、これは、ぜったいに、ゼッタイに、絶対に風邪ではありません。お願いですから血液検査して下さい」

指先にチクリと針を刺し、血液を採って30分ほど待つと、診察室に通されました。
「肺炎ですね。すぐ入院してください」
いい加減なヤツだ、と思いましたが、とりあえず入院すれば、ラントムに怒られずに済みますから、ちょっと安心しました。
3日間の入院で、随分楽になったわたしは、退院できましたが、その後、一ヶ月ほどは体調の悪さを、ずっと引きずっていました。かなりダメージを受けたようです。みなさんも、タイに限らず、具合が悪くなったときは、ある程度自分で病気の目星を付けてから医者に係らないと、とんでもない事になる場合がありますよ。

もし、わたしが吐血して意識を失い、全身痙攣で麻痺していたとしても、カトゥー・ホスピタルの女医さんなら、きっと、こう言うでしょう。
「風邪ですね」
by phuketbreakpoint | 2005-10-20 12:35