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タイ・プーケット島在住。タイならではの出来事や日々の体験、個人的な思い出などを書きとめています。


by phuketbreakpoint
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王者ローリング・ドリアンズ

中学1年生の頃、ローリング・ストーンズのアルバムを初めて買いました。そして、大いに驚きました。
彼らの素晴らしさに驚いたのではなく、あまりの酷さに、ビックリしてしまったのです。

“ビートルズのライバル”
“ストーンズは、遂に、ビートルズを超えた”
“ビートルズなき後の、ロック界の王者ストーンズ”
日本のレコード会社が考えた宣伝コピーは、ほぼ、すべて、ビートルズ絡みのものでしから、それを読んだ人たちは(特に私のような中学生は)、当然、ビートルズのように、美しいメロディーラインや、高度な音楽性を期待していたと思います。

ところが、スピーカーから流れてきた音は、いきなり、アレでしたから、
「なんじゃい、コレは?」
というのが、正直な感想でした。
メロディーは、グチャグチャで、ギター・テクニックも、大したことはなく、何よりも、ミックの、あの声と歌唱力(音痴に聞こえました)には、かなり幻滅しました。レコード屋に、返しに行こうかと思ったほどです。
当時(1974年頃)は、ビートルズを別格にしても、レッド・ツェッペリンや、ディープ・パープル、クイーン、ピンク・フロイド、バッド・カンパニー、ELPなどが売れていましたから、不良中高生向き(?)の、音楽専門誌、「ミュージックライフ」の年間人気投票でも、これらのバンドが上位を占めていました。
それに対して、ストーンズは毎年、13位から、17位辺りを、ウロチョロしており、ザ・フーや、Tレックスといった、同じく、ゲテモノ扱いされていたグループらと、レベルの低い順位争いをしていた記憶があります。

散々な、ストーンズ初体験でしたが、不思議なことに、我慢して聞いているうちに(誰かにあげようと思ったのですが、誰も欲しがりませんでした)、妙な味わいがあって、だんだんと、ハマッてきている自分に気がついたのは、買ってから、3~4ヶ月経った頃でしょうか。
ストーンズの最新アルバム、「イッツ・オンリー・ロックン・ロール」が発売されるや、なんと私は、レコード屋に走っていたのです。そして、そのときも、やっぱり、
「やっべぇー、また、失敗だよー!」
が、第一印象でした。
発売される度に、欲しくはないんだけど、なんとなく買いたくなってしまう、不思議な魅力が、ストーンズにはありました。

プーケットに来て、初めて、ドリアンを食べたときも、これと同じだったように思います。
「うっ!?なっ、なんだ、これは・・・・」
腐りかけのミルクを、多目に入れたチーズケーキ?いや、異様に臭い、果物グラタン?
そんな印象だったでしょうか。
「これが、果物の王様・・・、まっさかあ・・・。だって、これ、果物じゃないでしょう」
そう感じました。
ロックの王者ストーンズに、負けないくらいの、不当表示、誇大広告だと思いました。
わずか、3粒ほどが入った小さなパックでしたが、結局、半分も食べられず、残りは、捨ててしまったと記憶しています。

しかし、ラントムと結婚し、美味しそうに、ドリアンを食べているラントムを見ていたら、釣られるように、私も、何粒か食べてしまいました。
そして、普通に食べられるようになると、あの独特の臭みや味が、忘れられなくなり、無性に恋しくなってきてしまうのです。
ドリアンには習慣性があるようですね。

その昔、ドリアンは高級果実だったようで、貧乏人の口には、滅多に入りませんでした。
ラントムが子どもの頃のコンジャン家も、非常に貧しく、ドリアンを、そのまま食べる、お金はありませんでしたから、一番安い品種である、トゥーリアン・バーンを、1個だけ買い、汁状のお菓子を作って、カウニヤオ(もち米)にかけて、食べていたのです。

ある日、彼女が学校から帰ってくると、台所に、ドリアンが置いてありました。
「わあ、ドリアンだー!おいしそうだなあ・・・・・。食べたいなあ・・・・・。でも、お母さんに、怒られるしなあ・・・・」
そんな心の葛藤に、とうとう耐え切れず、
「誰も、見ていないし、ちょっとだけなら・・・」
皮を、少し剥がし、中から一粒抜き取って、食べてしまいます。
「やっぱり、おいしいー!」
これで満足すれば、よかったのですが、食べた一粒の味が口から離れず、じっと、ドリアンを見つめていたら、唾液で、口の中が、いっぱいになってしまい、
「もう一つくらいなら・・・・」
と、再び皮を剥いで、また一口。
「本当に、おいしいー!!」
ここで、台所を出ようとしましたが、心では、そう思っていても、足が動きません。
「よし、じゃあ、今度こそ、本当に、最後ね」
自分に言い聞かせるように、そう誓うと、さらに、もう一粒。
「あー、幸せー!!」
しかし、ドリアンの神秘的な魔力は、彼女を離そうとせず、悪魔のような囁きが、耳元に聞こえてきます。
“あと1個だけ、食べちゃえよー。バレやしないさー!”
そんな誘惑を振り切ることもできず、手は、再びドリアンに・・・・。
この時点で、ドリアンは、既に、半分くらい無くなっていましたが、
「ええい、こうなったら、もう、全部食べちゃえ!!」
悪魔に、どっと身を投げ出したラントムは、残りの半分も、一気に食べてしまい(さすが、お父さんの娘です)、最後は、皮を元に戻して、紐で結び、偽装工作を施してから、その場を離れました。
お母さんが戻ってきて、すぐに見つかってしまったのは、いうまでもありませんが、数十年前のタイの田舎では、ドリアンは、それほど貴重な存在だったようです。

ドリアンを食べて、美味しいと感じる日本人は、10人に1人もいないわけですから、ストーンズを聴いて、素晴らしいと思う人も、だいたい、同じくらいの比率とみて間違いありません。
だいたい、キース・リチャーズのボーカルや、ミック・ジャガーのギター、ましてや、キーボードなんかは、はっきり言って、
“聴きたい人は、誰もいない”
と言い切れますが(失礼)、
「最後に、ちゃんと盛り上げてやるから、お前ら、オレのギターも、我慢して聴いてくれ」
と無理やり、ショーに挿入してしまう強引さが素晴らしい。

みなさんも、
「これは、ちょっと・・・」
と敬遠していることがあっても、我慢してやっているうちに、病み付きになってしまうかもしれませんよ。

やっぱり、ドリアンは果物の、そして、ローリング・ストーンズは、ロックの王者です!
by phuketbreakpoint | 2010-04-02 09:10